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2016年2月 6日 (土)

”とりあえず絶食”は、高齢誤嚥性肺炎患者の予後へ悪影響をもたらす?(Clin Nutr. 2015. pii: S0261-5614(15)00245-9. [Epub ahead of print]

ここのところキチンと更新しているのは、論文を読む時間も、それをまとめる時間もあるから。
得た知識をまとめるとやはり頭に残りやすいし、忘れてもすぐ見なおせるから良いですね。

さて。毎月送られてくるMedical Tribune紙や日経メディカルに、気になるタイトルがあったので
元論文を読んでみました。確かに絶食時間が長いと嚥下機能が弱るのは良く言われていますが、
だからと言って誤嚥性肺炎患者に食べさせて良いのかどうかは迷う所です。

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筆者は熊本の栄養療法を専門にしている内科医。

【対象と方法】
2011年2月~2014年5月まで、誤嚥性肺炎の診断で筆者らの施設に入院した65歳以上の患者331名の比較。
(CAP or HCAPを主に対象としている)
早期経口摂取群:入院時にSTがついて48時間以内に経口摂取が始まっていた患者214名。
とりあえず絶食群:STはつかず、主治医の指示通り絶食となっていた患者117名。

誤嚥性肺炎の診断は以下を満たすものとした。
① X-p, CTで新規に下葉中心の浸潤影が出現している
② 白血球増多・発熱・膿性喀痰・CRP高値の内、2つ以上がある
③ 嚥下障害スクリーニング(水飲みテスト or フードテスト)で陽性

最初から重度の嚥下障害があると分かっている患者、入院前に嘔吐のエピソードがある患者、SpO2 > 90%を保つのに3L/min以上の酸素投与を必要とする患者は、経口摂取によるリスクが高いと考え除外。

primary outcomeは肺炎治療期間。(下記の内、入院日から最も早いものと定義)
① 軽快退院日
② 胸部異常陰影の完全消失と呼吸器症状の改善
③ CRP < 1.5mg/dlとなった日

secondary outcomeは絶食期間、栄養摂取量(総窒素量を計算)、死亡、嚥下機能低下。

背景因子にかなりのバラつきがあったため、傾向スコアをIPTW法による重み付けをして背景調整を行い、その上で比較を行った。結果、治療期間中央値が8日 vs13日、絶食期間は0.5±1.8日 vs 4.8±4.9日、死亡は2.3% vs 11.9%、嚥下機能低下は16.3% vs 65.1%といずれも有意に早期群が良好であった。
絶食群であること、実際の絶食期間、低栄養の3変数を含め多変量解析に掛けたところ、いずれもが独立した治療期間延長因子であった。さらに絶食群であること、実際の絶食期間は独立した嚥下機能低下因子でもあった。

【結論】
“とりあえず絶食”という方針は患者に不利益をもたらす可能性がある。
特に治療期間を延長させ、嚥下機能を低下させる可能性が示された。

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感想:

個人的にはちょっとこのままでは間に受けられない内容かと思いました。


まず背景因子が違いすぎる。元データを見ると明らかに早期群が軽症かつbetterな治療を受けていそうな感じがある。そもそも、入院初日からSTを介入させるような積極的な主治医と、そうでない主治医とでは治療内容も差があるだろうと容易に想像できる。
IPTW法はいわゆる傾向スコアの背景調整方法の一つだが、傾向スコアでは変数に挙げられなかった背景因子は調整されない。つまり設定しなかった多くのバイアスが影響している可能性がある。例えば変数の中に”担当主治医”などの因子も入れたらどうなるのだろうか。
誤嚥性肺炎の内でも酸素3L未満の軽症患者が選択されているはずなのに、絶食群の死亡割合が11%もあるのは何故か?(年齢中央値が85~86歳と高齢だから?) ここの考察が欲しかった。


次にprimary outcomeの設定に同意しかねる。retroだし治療期間の定義付が難しいのは承知の上だが、CRPやX-pでの浸潤影消失は治療の指標としては感度も特異度も悪いし、本当に効果を反映してるのか謎。高齢者なんて合併症多いしbaseline値もバラバラなのに、本当にCRP<1.5mg/dlで良いのか?このカットオフは恣意的では?

更にその内どれか一つクリアしていればOKというのも違和感を覚える。CRPの下がりと、浸潤影の消失は認められる時期も違うし、これを治療期間として一緒くたにしてはいけない気がする。これでは例えば主治医が検査をしなければいつまでも治らないことになるし。諸々のバイアスを排除するにはシンプルに退院日で統一すべきだったのでは。もちろん退院調整とか他のファクターが入ってくるので治療期間を反映しないという反論もあろう。しかし嚥下出来なければ退院日が延びる傾向があるのは確かなのだし。
他にも、例えば一般的にRCTで使用されている"抗菌薬投与期間"などのendpointを使用する方がより納得が行っただろう。(誤嚥性肺炎の抗菌薬投与期間は1週間だが、本当に治りが悪ければ期間が延長されているはずだろうから。)

……以上、私が読んだ限りは突っ込みどころが多い解析かと思いました。retroの研究というのはバイアスを極力除く作業が最も重要ですので、もう少しbrush up出来たのではと感じます。明日から自身の臨床を変える程のインパクトは無く、Medical tribuneとかはちょっとセンセーショナルに取り上げすぎなんじゃないかと思います。

ただ“とりあえず絶食”という方針に一石を投じたという点では評価でき、自身の診療を見直す良い機会になったとは感じました。是非今度は前向きに検証して欲しいですね。

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